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山で履くレギンス


気づいたら、もう9月になりました。山はもうすっかり秋の気配でしょうか。高山植物図鑑より、2年ぶりにメリノウールレギンスを生産いたしました。再販のお問い合わせがとても多く、2年ぶりの生産となります。足を通した人にしかわからない、手放せなくなるレギンスの良さがあります。見た目の派手さはなくとも、インナーとして、私はこのアイテムなしでは冬を越せなくなってしまったほど、私の人生の中でも、ブランドとしても、とても大切な品番となりました。


山で履くレギンスとして開発を進めましたが、もちろん日常でも使えます。私は、山でも、日常(パンツの下に防寒でめっちゃ履いてる)でも、スキーの時も、自転車に乗る時もいつもいつも履いてます。スキーの時、本当に好き。組み合わせが好き。


タイツやレギンスは、くつ下に比べて面積も大きいので、何かとストレスを感じることが多い。股上の長さとか、ウエストの締め付け具合とか、一つ一つの仕様は細かいけど、目に見えない細かな仕様を突き詰めることで、最上級のものが生まれると信じています。私が作る意味も、ここにあります。


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ものづくりにおいて、私が大切にしていること。


・繊細で上品か

・履き心地はよいか

・適切な素材で作られているか(使用シーンに合っているか)


最近、1つ追加された項目がある。「くつ下の読本」という昭和39年に発行されたとてもマニアックな本を1万円で購入した。当時の価格は、650円。私にとっては、1万円の価値のある一冊だった。内容はくつ下の総論から原料、糸捲、編み立て、くつ下機の種類など、後半になるにつれて技術者向けのとにかくマニアックな内容だった。その本に書いてあった言葉が、私のレッグウェアを作る心得となった。


「くつ下の使命と はきよいくつ下とは」


くつ下の使命


1)保温

2)足の保護

3)くつをはく場合、滑りをよくして、はきやすくさせる

4)くつと共に歩行の場合の衝撃を全身に与えないようにする

5)足に美観を添えて、はく人の高尚度を高めると思う


私の作るくつ下は、"(5)足に美観を添えて、はく人の高尚度を高めると思う" − これだ。


※高尚度とは

高尚の意味は、精神的にすぐれていること、上品で気高いこと、俗っぽさや低俗さと対比されるもの。

例:「高尚度を意識したデザイン(=上質感や文化的価値を重んじたもの)」


開発をしたレギンスの意図としては、私の山行において、レギンスとは年中使い勝手のいいギアの一つであったこと。市場にはメリノウール素材で作られた無縫製のレギンスがなかったこと。Calvin Kleinのベーシックなタイツのような、服や肌に馴染みのいいカラー展開がなかったこと。全てをクリアできたレギンスです。


- 無縫製のウールレギンス


ウール素材を使用した無縫製(丸編み)のレギンスを作るとき、一番に大切にしたことは、“ちょうどいい薄さと、薄くて毛玉にならない” の2点でした。私が普段使用している生地縫製のアイスブレーカー175 Everyday Merino Base Layer Leggingsは3年余り使用したが、全く毛玉にならない。丸編みよりも生地縫製の方が、毛玉になりづらいのが一番魅力的なところ。耐久性も、ピリング性も、申し分なく気に入っていたのだが、どうも野暮ったい。インナーとしての用途なので、ももひきのような感じで、足が綺麗に見えない点も気になっていた。それと、生地縫製のレギンスは、フィット感が少し足りなかった。少しゆるっとした絶妙なフィット感も好みだが、肌に密接している方が保温性もアップするので、身体に吸い付くようにフィットした履き心地のレギンス(縫製ではないもの)を開発をしました。

無縫製(丸編み)というのは、サイドに縫製がありません。レッグウェアのデザイナーはみんなこの「丸編み」のアイテムが好き。くつ下仲間でよくタイツやレギンスの話になると、「やっぱり丸編みがいいよね」と最終的には話がいつも纏まる。くつ下が大好きだけど、冬にしか履けないタイツも大好き。タイツのような感覚で、薄くて暖かい、足が綺麗に見える山で履くレギンスがあったら最高。と思い、丸編みで開発を進めました。


- ちょうどいい薄さ 


厚すぎると、行動中ヒートアップして暑い。ニットなのでフィット感があるため、生地が厚いと皮膚が呼吸していない感覚になるので、ほど良い薄さに拘りました。使用した機械は320Nを使用。(320本の針が一周ぐるりとある機械の事)マニアックな話ですみません… この機械は、丸編みの中でも最もハイゲージで、パンストなどによく使われる国内だとなかなか珍しいゲージの機械です。私は、この320Nを使ってレギンスを作りたくて、工場の方(機械を操る技術者)と打合せを重ねていった。レッグウェアを作るとき、どの機械に、なんの糸を、どの番手の糸で、どんな仕様で編み立てするか。パズルのように当てはめていきます。機械と糸の特性が番手もとても大切です。糸の選定をするのも、デザイナーの仕事。くつ下のデザイナーって、絵を書いてデザインするだけではないんです。この話は、次のnoteで書こうと思っています)320Nの機械は主にパンストなどを編み立てるする機械なので、糸はナイロンなど細い番手の糸が多い。私が使いたかった糸は、ニュージーランドメリノウール 17.5μ 番手1/72のウール糸でした。「糸が太くて機械にかからない」とずっと技術者の方に言われて、この機械を使うことを諦め、240Nの少し針数を減らした機械で開発をすることにしたのだが、240Nだと理想的な厚さに辿り着けず、ピリングもひどかった。どうにかして、320Nで編み立てしたい。何か方法はないかー。何回目かわからないけど、交編編みで編んでみてもらえないかお願いをした。


※交編編みとは

表糸と裏糸を交互に編むこと。パンストなどを作るときに使う技法


生地も薄くなるので、もしかしたら編めるかも?と期待はしなかったが、なんとウールを使って320Nで編めた。8回目の修正でやっと、自分の思い描く理想の編み地に辿り着くことができた。諦めずに、一緒にものづくりに向き合ってくれた工場さんには、本当に本当に感謝。奇跡の編み地が出来上がりました。


交編編み:伸ばすと1ウェールずつ縞模様になっています
交編編み:伸ばすと1ウェールずつ縞模様になっています



色展開について


色は、2色展開。2年前に展開したチェルノーゼムと、新色のグラナイトグレー。


  • Granite gray / グラナイトグレー  花崗岩  medium gray

    暗すぎず、明るすぎない定番グレー。私の大好きなカルヴァンクラインのグレータイツを目指して作りました。


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ネイビーのくつ下との相性が可愛い
ネイビーのくつ下との相性が可愛い
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花崗岩(かこうがん)とは、地球の地殻深くでゆっくりと冷えて固まった火成岩(深成岩)の一種。日本では、屋久島の永田岳、南アルプスの甲斐駒ヶ岳と鳳凰三山などで見られます。去年、ヤクシマシャクナゲに会いに行った永田岳までの山行と景色が忘れられず、ここからインスピレーションをしました。花崗岩を英語で、Granite と言います


2024.5 屋久島 永田岳 撮影
2024.5 屋久島 永田岳 撮影


  • chernozem / チェルノーゼム 土 brown

    ブラウンですが、裏糸の色に黒を入れているので、明るすぎないちょうどいいブラウンです。

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土の皇帝―。「チェルノーゼム(黒い土)」そう呼ばれてきた土がある。土壌の養分が豊富でバランスがよく作物の栽培に非常に適した性質の土のこと。黒い土のように とても濃いブラウンを伝えたくて、色名を調べていたときに、山の土を見て調べた言葉。


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色を比べるとこんな感じ。


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- わずか、67g


レギンスの重さは約67g。とてもコンパクトで、防寒として1枚持っていくのにも躊躇わない重さ。寒くて眠れるかな‥の不安や、荷物を少しでも軽くしたい葛藤も、問題なくお守りとして持っていける軽さです。使わなくて持っていかなければ良かった、の後悔もない。旅には、不安をかき消してくれる要素も、余裕も、余白も欲しい。1つも妥協したくないし、無理はしたくない。私が山で遊ぶときに大事にしていること。テント泊や小屋泊時にも重宝するレギンスは、とてもフィット感があるので薄くても本当に暖かい。1足あると安心する67gのレギンスです。


雷鳥沢キャンプ場から五色ヶ原キャンプ場まで縦走した時の就寝着として
雷鳥沢キャンプ場から五色ヶ原キャンプ場まで縦走した時の就寝着として


私のレギンス使用用途は、オールシーズン。メインは、秋冬シーズンにレギンスを使用します。夏も履けますが、フィット感があるので樹林帯は登りなどは暑く、稜線を出て風のある10℃前後の気温では特に問題なく快適でした。


- どんなときに使う?

 ・夏のテント場(就寝時に)

 ・秋の紅葉時期(スカートやワンピースの下に)

 ・冬の雪山登山(パンツの下に)

 ・春先の残雪期(パンツの下に)


山で使う道具とは、しっかり理由と意図があって、可愛いから だけでは補えない身体を快適に守るプロダクトであって欲しい。もちろん可愛いだけでも問題はないかもしれないけど、私は、自分が生み出すものには、しっかりと理由があるものにしたい。高山植物図鑑だけでなく、laceflowerのくつ下もずっとそうやって作ってきた。そういった理由を自分自身に問いただしながら、作って意味のあるものを、世に、人に、発信できるように。このレギンスは、きっと足を通した方たちの - 高尚度 - を高められる1足になったと思う。


- ウールは肌に良い


「ウールはチクチクして敏感肌だから着れない」「痒くなってしまって難しい」と思いがちではないでしょうか。ザ・ウールマーク・カンパニーより近年発表された研究によって、スーパーファイン・メリノウールを素肌に直接着用することが、湿疹患者に改善効果をもたらすことを示しました。メリノウールが健康やウェルビーイングに効果的であることを裏付ける研究結果は増えており、今回の研究もそれを裏付けるもの。重要なことに、衣類によって引き起こされる皮膚への刺激は、生地から突出している粗い繊維(直径30マイクロン以上)によるものであり、繊維の種類は関係ないということも明らかになった。また最新の皮膚科学試験では、乳児、思春期、成人の湿疹に罹患している人が、スーパーファイン・メリノウールの衣類を皮膚に直接着用すると症状が軽減すると報告されています。アトピー性皮膚炎の重症度と症状が、平均繊維径≤17.5mmのスーパーファイン・メリノウールの衣服を1日6時間以上、6週間着用することのメリットを示した研究内容も発表されました。


(ザ・ウールマーク・カンパニー 






<着用に関しての注意事項>


◻︎編み地の風合いについて


天然の極細ウール糸を用いた繊細な編み地のため、まれに色の濃淡や「まだら模様のような陰影」があらわれる場合がございます。自然素材がもたらす独特の趣であり、同じものが二つとない豊かな表情としてご堪能いただければ幸いです。


◻︎着脱時のご注意事項


とても繊細な為、着脱の際は爪など引っ掛からないようにご注意ください。パンストストッキングを履くように、裾まで捲し上げてから足を通すと、履きやすいです。万が一、不注意で穴をあけてしまった場合は、愛着を持ってこれからも使って頂きたいと思えるよう、自分の手でお直しをする「ダーニング」をおすすめしております。ダーニングとは、ヨーロッパで伝統的に行われている衣類の穴あきやすりきれた箇所を修繕する針仕事の事。簡単な針仕事でぜひ調べてみてくださいね。過度に1箇所のみ負荷をかけて着用すると、編み地が伸びきってしまう恐れがございますので、ご注意ください。


◻︎お洗濯方法


ウールは殺菌・消臭効果があります。汚れや臭いが気にならない場合は、毎回お洗濯せず、ハンガーなどで干して置くだけで大丈夫。とても繊細な編み地なので、お洗濯の際は、ネットに入れてお洗濯してください。着脱の際は、ストッキングを履くように丁寧に、手の爪が伸びていないか、確認をしてから足を通してくださいね。


<お洗濯方法>


・通常、40℃でソフトコースをお選びください。

・洗濯機にウール設定がない場合は、冷水またはデリケートな 衣類向けの設定をおすすめします。

・乾燥機のご利用はお控えください。

・柔軟剤・漂白剤は使用しないでください。



みなさまの足元を、支えられる存在となりますように。

どうぞ、皮膚と一体化するような高山植物図鑑のレギンスをお楽しみくださいね。


 
 
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